反物質Ⅳ

反物質Ⅳ 第8章 存在証明

レマン湖の水面は、午後の光を受けて銀色に揺れていた。6月のジュネーブの空は高く、夏へ向かう前の青を徐々に増やしている。閉域施設へ続く地下通路の入口だけが、街の明るさから切り離されていた。林暁蓉は、その入口の前で立ち止まった。香港からの移動で...
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反物質Ⅳ 第7章 紅月会の隠し子

5月、香港の朝は、空より先に港の水面が明るくなった。湾岸の高層住宅区では、海から上がる湿った光が窓の下を滑り、対岸の金融塔を白く浮かび上がらせていた。2074年の香港は、上へ伸びる都市だった。歩道は何層にも分かれ、無人の貨物艇が水路を横切り...
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反物質Ⅳ 第6章 戻る理由

4月初頭、瑠璃は戻るつもりではなかった。ミラ・ロッシュが死んだ夜から3日後、ジュネーブ中央駅の地下ホームには、春先の湿った冷気が流れ込んでいた。2074年の駅は、人間の混乱を交通システムが先に吸収するように作られていた。自動列車の扉が開き、...
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反物質Ⅳ 第5章 γ線の白い部屋

3月末、春まだ浅いレマン湖の水面は、朝から不自然なほど明るかった。白く磨かれた研究棟の外壁が陽を返し、湖畔の遊歩道には、冬物のコートをまだ脱ぎきれない観光客の影がゆっくり流れていた。ジュネーブの空は薄く晴れていたが、風にはまだ湖から上がる冷...
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反物質Ⅳ 第4章 凍らない火

モスクワ郊外の旧研究都市では、雪がまだ降っていなかった。年明け、2074年1月の空は低く、雲だけが先に冬へ入っていた。白い無人バスが、使われなくなった研究棟の前を音もなく通り過ぎる。車体の横には民間物流会社の名が浮かんでいたが、窓の内側に人...
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反物質Ⅳ 第3章 近すぎる血

秋が深くなると、ジュネーブの光は低くなる。2073年10月、レマン湖の水面は夏の青を失い、鉛色と銀色の間で静かに揺れていた。街路樹の葉は黄褐色に変わり、旧市街の石壁には朝の湿り気が残る。遠くの山々は雲の下に沈み、CERN後継施設へ向かう地下...
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保護中: 反物質Ⅳ 第2章 ニースの白い午後

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反物質Ⅳ 第1章 雪解けの相関

港から吹く風が、まだ冬を少しだけ引きずっていた。2073年4月のヘルシンキは、雪解けの水を石畳の隙間に残しながら、朝の光だけは驚くほど明るかった。自動運航トラムが音もなく角を曲がり、港湾ドローンが低い空を横切る。白い雲の下で、古い教会の輪郭...
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反物質Ⅳ 序章 EURYDICE

湖底から上がってきた信号は、最初、ただの欠落として処理された。2073年3月末、レマン湖岸の閉域解析棟では、深夜の保守枠だけが残っていた。研究者の多くは帰り、壁面の大型スクリーンには、レマン湖、バイカル湖、男鹿の一ノ目潟、そしてジュネーブ第...
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反物質Ⅲ 終章 残された火種

男鹿の水面は、翌朝には何もなかったように静かだった。観測施設の外では、濡れた機材が並べられている。夜通し動いた発電機は止まり、作業員たちの声も低い。大きな爆発は起きなかった。町に被害も出なかった。ニュースに出せるような事件は、ほとんど何も残...
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