反物質Ⅱ

反物質Ⅱ 第6章 封印を解く者

2025年春、内閣情報調査室の地下資料庫で、宗像幸司は封印指定の古い箱を開いた。四十歳に少し届かない年齢だったが、すでに同世代の官僚とは違う目をしていた。出世のために秘密を扱う者の目ではない。秘密そのものを、国家の骨格に変えようとする者の目...
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反物質Ⅱ 第5章 名を変える子

2021年9月、バージニアの空は低かった。雨ではない。だが、空気全体が湿った灰色を含み、建物のガラスに薄く張りついている。崔明珠は、息子の志遠を抱いたまま、窓のない小さな待合室で名前を呼ばれるのを待っていた。韓国を出る時、彼女は自分が亡命者...
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保護中: 反物質Ⅱ 第4章 消えた記憶

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反物質Ⅱ 第3章 冬の産声

2018年12月1日、男鹿には早い雪が降っていた。海から来る風は、家々の屋根に薄く積もった白をすぐに払い落とし、戸賀湾の水面を灰色にざわめかせていた。深山慎一は病院へ向かう車のハンドルを握りながら、自分の呼吸が浅くなっていることに気づいてい...
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反物質Ⅱ 第2章 朴瑞妍の爪

退院から三週間が過ぎると、ソウルの空は急に高くなった。朝の空気は乾き、歩道の端には銀杏の匂いが混じり始めていた。崔明珠は抱っこ紐の中の志遠を片手で支えながら、病院へ向かう道をゆっくり歩いた。帝王切開の傷はまだ時々うずいたが、タクシーばかり使...
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反物質Ⅱ 第1章 ソウルの胎動

2018年8月25日、崔明珠は分娩台ではなく手術室にいた。ソウルの夏は、まだ終わっていなかった。病院の高い窓の外では、午後の光が白く膨らみ、街路樹の葉を乾いた緑に見せていた。けれど手術室の中には季節がなかった。空調の冷たい音、金属製の器具が...
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反物質Ⅱ 序章 呼ばれぬ名

二つの名は、互いを知らないまま生まれた。一つはソウルの白い手術室で、泣き声を上げないまま取り上げられた。崔志遠。遠くへ志す者。母はその名に、逃げ延びてほしいという祈りを隠した。誰にも奪われず、誰の記録にも正しく載らず、遠くまで生きてほしい。...
独り言

【挿絵と登場人物】

序章から終章までAIに全部読み込ませて、登場人物と場面の絵を適当に作らせてみた。中には大外れもあったが、大体期待通りか。登場人物の相関図でも作らせるかな。人物にはクセがあるな。ベースはあまりバリエーションが無いのだろう。もう少しキワドい絵も...
反物質

終章 夜航の胎動

時間は、白神の封印より少し前へ戻る。2018年3月上旬、羽田空港の国際線ターミナルは、夜になっても明るかった。出発案内の表示にはソウル行きの最終便が並び、ガラスの向こうでは滑走路の灯が雨に滲んでいた。崔明珠は搭乗口へ向かう途中で足を止め、洗...
反物質

第15章 戻る場所

白神のあと、茜は秋田市内の病院へ運ばれた。肩の弾は骨を避けていた。出血は多かったが、命に別状はないと医師は言った。慎一が最初に聞いたのは、茜の命のことではなかった。腹の子は、と口にしてから、自分を殴りたくなった。茜はまだ手術室の中にいる。な...