反物質

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終章 夜航の胎動

時間は、白神の封印より少し前へ戻る。2018年3月上旬、羽田空港の国際線ターミナルは、夜になっても明るかった。出発案内の表示にはソウル行きの最終便が並び、ガラスの向こうでは滑走路の灯が雨に滲んでいた。崔明珠は搭乗口へ向かう途中で足を止め、洗...
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第15章 戻る場所

白神のあと、茜は秋田市内の病院へ運ばれた。肩の弾は骨を避けていた。出血は多かったが、命に別状はないと医師は言った。慎一が最初に聞いたのは、茜の命のことではなかった。腹の子は、と口にしてから、自分を殴りたくなった。茜はまだ手術室の中にいる。な...
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第14章 眠れ、青い火

白神地下施設の最深部では、湖底宇宙船から切り出された外殻材が、携行型神籠の中枢へ組み込まれようとしていた。外殻材は、船の皮膚であると同時に、神経でもあった。ただの装甲ではなく、船内の装置へ信号を伝える古い制御回路でもあった。博之は、この神経...
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第13章 鞄の中の終末

反物質兵器の最終形は、誰もが想像するようなミサイルではなかった。巨大な発射台も、潜水艦も、戦略爆撃機も必要としない。官邸側の視線を受け止めた森山斉昭専務の前で、坂口博之場長が会議室の中央に置いたのは、黒いアタッシュケースだった。その手つきを...
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第12章 胎動する鍵

2018年3月下旬、茜が慎一に妊娠を告げたのは、東京ではなかった。男鹿半島の戸賀湾の水族館に近い海岸で、冬の波が岩を叩く午後だった。慎一は言葉を失った。驚きより先に、恐怖が来た。自分の血が何であるかわからない。その血が、茜の中で次の命になっ...
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第11章 三沢の鳥瞰

米軍三沢基地の作戦室では、夜が青かった。壁一面のモニターに、白神山地周辺の熱源画像、航空管制記録、輸送ヘリの航跡、地磁気ノイズの波形が並ぶ。レベッカ・ショウ中佐は、コーヒーが冷めるのも忘れて画面を見ていた。「説明不能というより、説明したくな...
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第10章 触れてはいけない日

2011年3月11日、慎一は30歳だった。八洲重工業の関連研究員として、田代試験場と首都圏の大学研究室を往復する生活を続けていたが、S-0311試験の当日は東京にいた。母・深山道子から、前夜に短い電話があった。「明日は、山へ近づいてはいけな...
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第9章 1グラムの太陽

田代試験場の第3会議室には、窓がなかった。壁面の大型モニターに、反物質のエネルギー換算が表示されている。1gの反物質が1gの通常物質と完全に対消滅する。換算値はTNT換算で約43キロトン。広島型原爆の約3倍弱に相当する。慎一はその数字を見る...
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第8章 名づける前の未来

2018年2月、プラハの空は低かった。慎一はカレル橋の中央で、茜を待った。ヘルシンキから一年以上が過ぎていた。再会は偶然ではない。互いに偶然のふりをしただけだった。茜はヘルシンキの時よりは明るい青色のコートを着ていた。厚手のウール地は古い石...
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第7章 半島に映る影

2017年の秋から2018年の初めにかけて、日本海側の空気は少しずつ硬くなっていった。北朝鮮のミサイル実験、韓国との大陸棚協定をめぐる再燃、そして第7鉱区の共同開発をめぐる古い火種。テレビの討論番組では専門家が地図を指し、海底資源という言葉...