反物質

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第6章 赤い絹の罠

2017年の春、三村雄太は東京湾岸の国際展示場に併設された会議棟で、資源安全保障シンポジウムに呼ばれていた。八洲重工業の名札を胸につけてはいたが、発表内容は表向きの極低温輸送技術に限られている。南鳥島周辺のレアアース泥、深海資源の採掘コスト...
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第5章 観察者の孤独

ヘルシンキの夜のあと、茜は慎一の前から消えた。だが、彼女が慎一を見たのは、その夜が初めてではない。それはヘルシンキより七年前、2009年秋のことである。慎一は八洲重工業へ籍を置きながら大学院との共同研究に出入りし、反物質封じ込めの異常予兆解...
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第4章 ヘルシンキの女

2016年10月、慎一は国際会議の名目でヘルシンキへ送られた。八洲重工業の研究者として、極低温宇宙推進のセッションに登壇する。発表資料からは、反物質という言葉が丁寧に削られていた。削られた言葉ほど、会場の空気には濃く漂う。ヘルシンキの空港に...
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第3章 白神地下の鍵

白神山地は、人間の時間を拒む森だった。1993年12月、世界遺産となったブナの森は、誰も踏み込まないことが価値だとされた。だからこそ、隠すには最適だった。八洲重工業は、自然環境モニタリング施設の名目で、岩盤の奥に第2研究区画を作った。田代試...
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第2章 田代という密室

1972年、総理官邸の地下では、まったく別の未来が封筒に入れられていた。「次世代抑止力基礎研究」核ではない。核という言葉を使わない。だが核を上回る。国家がその存在を否定しながら、その影だけで敵を沈黙させる力。後に「反物質兵器」と呼ばれる構想...
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第1章 鬼面の来訪者

2万年前、男鹿半島の海岸線は現在よりも少し日本海側へ広がり、冬の海は低い雲の下で鈍く光っていた。氷期の風は硬く、森は現在のような豊かさをまだ持たない。それでも人はいた。季節を追い、獣を追い、魚を獲り、火を囲み、石を割った。やがて縄文へ連なっ...
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序章 湖底の青い沈黙

2008年3月11日、秋田大学の佐藤涼教授は、一ノ目潟の湖面に浮かぶ小型調査艇の上で、採泥プローブの振動を手のひらに感じていた。男鹿半島のマールは、火山が大爆発を起こしてできた丸い傷跡である。山体を積み上げる噴火ではない。地下で水とマグマが...