反物質

第14章 眠れ、青い火

白神地下施設の最深部では、湖底宇宙船から切り出された外殻材が、携行型神籠の中枢へ組み込まれようとしていた。外殻材は、船の皮膚であると同時に、神経でもあった。ただの装甲ではなく、船内の装置へ信号を伝える古い制御回路でもあった。博之は、この神経...
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第13章 鞄の中の終末

反物質兵器の最終形は、誰もが想像するようなミサイルではなかった。巨大な発射台も、潜水艦も、戦略爆撃機も必要としない。官邸側の視線を受け止めた森山斉昭専務の前で、坂口博之場長が会議室の中央に置いたのは、黒いアタッシュケースだった。その手つきを...
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第12章 胎動する鍵

2018年3月下旬、茜が慎一に妊娠を告げたのは、東京ではなかった。男鹿半島の戸賀湾の水族館に近い海岸で、冬の波が岩を叩く午後だった。慎一は言葉を失った。驚きより先に、恐怖が来た。自分の血が何であるかわからない。その血が、茜の中で次の命になっ...
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第11章 三沢の鳥瞰

米軍三沢基地の作戦室では、夜が青かった。壁一面のモニターに、白神山地周辺の熱源画像、航空管制記録、輸送ヘリの航跡、地磁気ノイズの波形が並ぶ。レベッカ・ショウ中佐は、コーヒーが冷めるのも忘れて画面を見ていた。「説明不能というより、説明したくな...
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第10章 触れてはいけない日

2011年3月11日、慎一は30歳だった。八洲重工業の関連研究員として、田代試験場と首都圏の大学研究室を往復する生活を続けていたが、S-0311試験の当日は東京にいた。母・深山道子から、前夜に短い電話があった。「明日は、山へ近づいてはいけな...
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第9章 1グラムの太陽

田代試験場の第3会議室には、窓がなかった。壁面の大型モニターに、反物質のエネルギー換算が表示されている。1gの反物質が1gの通常物質と完全に対消滅する。換算値はTNT換算で約43キロトン。広島型原爆の約3倍弱に相当する。慎一はその数字を見る...
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第8章 名づける前の未来

2018年2月、プラハの空は低かった。慎一はカレル橋の中央で、茜を待った。ヘルシンキから一年以上が過ぎていた。再会は偶然ではない。互いに偶然のふりをしただけだった。茜はヘルシンキの時よりは明るい青色のコートを着ていた。厚手のウール地は古い石...
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第7章 半島に映る影

2017年の秋から2018年の初めにかけて、日本海側の空気は少しずつ硬くなっていった。北朝鮮のミサイル実験、韓国との大陸棚協定をめぐる再燃、そして第7鉱区の共同開発をめぐる古い火種。テレビの討論番組では専門家が地図を指し、海底資源という言葉...
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第6章 赤い絹の罠

2017年の春、三村雄太は東京湾岸の国際展示場に併設された会議棟で、資源安全保障シンポジウムに呼ばれていた。八洲重工業の名札を胸につけてはいたが、発表内容は表向きの極低温輸送技術に限られている。南鳥島周辺のレアアース泥、深海資源の採掘コスト...
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第5章 観察者の孤独

ヘルシンキの夜のあと、茜は慎一の前から消えた。だが、彼女が慎一を見たのは、その夜が初めてではない。それはヘルシンキより七年前、2009年秋のことである。慎一は八洲重工業へ籍を置きながら大学院との共同研究に出入りし、反物質封じ込めの異常予兆解...